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第8話 虐待の終焉と辺境伯の怒り

Author: みみっく
last update Huling Na-update: 2025-11-30 14:39:42

 少女は、精いっぱいの力で抱きしめ返してきた。

「……はい。ありがとうございます。……わたし、シャルロッテといいます。」

 安心した表情で、震える声ながらも自己紹介をしてきた。

「シャルちゃんかぁー。もう、だいじょうぶだよ。ユウくんは、やさしいからぁ♪」

 黙って様子を見ていたミレディが笑顔で、俺とシャルに抱きつくように言った。

「じゃ、そうと決まれば、買い物の続きをするか。」

 二人を連れて歩き始める。

 だが、歩くシャルの動きにどことなくぎこちなさを感じた。歩調が不自然で、わずかに痛々しさがにじむ。

「どこか、痛むのか?」

「……いいえ。大丈夫です。」

 小さな声でそう答えるものの、その様子から我慢しているのは明らかだった。俺は迷うことなく、シャルを抱きかかえる。

 シャルの我慢をしている様子が不自然で、嫌な予感がしていた。

「……わぁ、え? だ、だいじょうぶですよぅ。あ、あの……ユウ様の服が汚れちゃいますよ? 重いですよぉっ。」

 シャルは慌てたように、顔を赤らめながら遠慮しつつも、どうすればいいのか分からずに戸惑っている。

「ずるいなぁ~……。ユウくん、力持ちだから大丈夫だよっ♪」

 ミレディが明るく言葉を重ね、シャルを安心させようとする。

 しかし俺は、そのままミレディの手を掴み、歩を速めた。

「え? お買い物……あれぇ?」

 ミレディが戸惑うのを聞きながら、俺は二人を連れて近くの警備隊の詰め所へと向かった。

「取調室を借りるぞ!」

 そう警備兵に告げると、すぐに鋭い声が返ってきた。

「貴様! 勝手に何を言ってるんだ!」

 怒鳴りつける警備兵を無視し、前へ進もうとした瞬間――。

 シュッ――

 苛立った警備兵が抜剣した。

 その音と気配を察したのか、隊長室の扉が勢いよく開く。

「辺境伯閣下!? どういたしましたか!」

 先ほどの店に来ていた隊長が飛び出してきた。そして、ユウの姿を確認するや否や、すぐに跪く。

「お前の部屋を使わせてもらうぞ。入室は禁ずるぞ!」

 短く言い直し、そのまま隊長室へと入る。

 扉を閉め、ゆっくりとシャルを床に降ろした。

 静かになった室内で、ミレディとシャルがキョトンとした表情のまま、俺をじっと見つめていた。

「シャル、服を脱げ。」といきなり言われたシャルは動揺した顔をして俯き、素直に服を脱いだ。

「え? ユウ……くん?」驚いた顔をしていたミレディの顔が変わり黙り、俯き悲しそうな顔をした。

 シャルの色白な肌に紫色の打撲痕、鞭や棒で叩かれた跡に切り傷があった。さらには骨折したのか、足が少しズレて曲がっていた。

「悪かったな。すぐに気づいてあげられなくて……」と言い、裸のシャルを抱きしめた。ぶるぶると首を横に振るシャル。

『こんな小女に虐待をして、喜んでいたのか……。手放そうともせず、ただストレス発散のためか? 幼い少女が苦しんでる表情を見て興奮でもしているのか? どちらにしても、孤児や奴隷の少女が被害にあうだけで、ここで罰を与えても反省するわけがない。終わらせてやる……。』

 ユウの心には、怒りと嫌悪感が渦巻いていた。あの店主が、何の罪もない幼い少女に与えた苦痛を想像すると、胸の奥が熱くなる。単なる罰では、この根深い悪意を根絶することはできない。この場所で、この歪んだ支配を終わらせる。その強い決意が、彼の瞳に宿っていた。

 俺はシャルを優しく抱きしめたまま、静かに治癒魔法を発動する。

 ふわりと淡い光の粒子が舞い上がり、優しい輝きがシャルの身体全体を包み込んだ。

 それはまるで夜空に散る星の輝きのように、穏やかで幻想的な光。微細な粒がゆっくりと波打ち、傷や痛みをやわらかく癒していく。

「……わぁ……きれい……」

 シャルは息をのむように、身体を包む魔法の輝きをじっと見つめていた。

 やがて、その瞳が驚きに満ちてゆく。

「あれ? 痛みがなくなってる! 体が軽い……あ、ありがとうございます、ユウ様ぁ!」

 喜びが溢れた表情のまま、シャルは勢いよく抱きついてきた。

 その温もりを感じながら、俺は彼女の背を軽くさすり、落ち着かせるように静かに息を吐く。

 ――もう、傷は癒えた。

 シャルの震える肩も、安心したようにゆるやかに落ち着いていった。

「服を着て、そこにあるソファーに二人で座って待っててくれるか?」

 俺の言葉に、ミレディとシャルは静かに頷いた。

 そのまま部屋を出ると、隊長が駆け寄ってくる。

「辺境伯閣下!」

 しかし俺の顔を見た瞬間、隊長は怯えたように歩みを止めた。

 ――抑えようとしていた怒りが、抑えきれずに溢れ出す。

 空間が歪むような感覚が広がり、どこからともなく ゴォォォ…… という低いうなりが響く。

 沈黙が場を支配する。

 俺は、冷え冷えとした声で尋ねる。

「先ほど捕らえたヤツらは、どこだ……?」

 威圧感と殺気が入り混じった言葉が、詰め所全体に響き渡る。

 それは決して大声ではなかった。だが、確実に場を圧倒し、周囲の空気を凍りつかせる。

 隊長は喉を鳴らしながら必死に答えた。

「は……地下牢に投獄中です……」

 声が震え、息を詰まらせる。

 ただの問いにすぎないのに、命を削るかのような返答だった。

「案内を頼む……」

 その一言に、警備兵の数人がカギを持ち、慌てて駆け出した。

 動きが鈍った兵士たちも、本能的に俺の指示に従わなければと急ぎ足になる。

 だが――

 下級の兵士は腰が抜け、力なく座り込んだ。

 中級の兵士数名と上級兵士は、震えながらも俺の前を歩き、地下へと先導する。

 通常なら、一人の案内役がいれば十分なはずだ。カギを開け、囚人を引き出す、それだけで済む仕事。

 それなのに、今は――

 彼らはこぞって俺の言葉に従い、怯えながらも忠誠心でその身を動かしていた。

 本能が告げているのだ。 ここで躊躇すれば、その怒りがどこへ向かうか、分からない。

 牢屋に近づくと、荒んだ笑い声や怒鳴り声が響く。

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